新年あけましておめでとうございます。
MashupAwards事務局の伴野です。
新年初のブログエントリーは、年末年始をかけて自身の整理用にまとめた情報を公開したいと思います。
MashupAwardsは2006年の第一回大会より「オープンイノベーションの発展」と「Developer’sLifeの向上」を基本方針として掲げ活動を開始いたしました。
それから10年、最近はオープンイノベーションというキーワードが以前よりも増して目につくようになってきたように思えます。
既に様々なオープンイノベーションが国内外で見られ、その方法論のコンサルテーションを通し、オープンイノベーション創発支援などをビジネスとする事業者も増えてまいりました。
本エントリーは、このように広がりを見せるオープンイノベーションを事例毎に類型化することで自身の思考を整理し、今後のオープンイノベーションの発展のためにMashupAwardsが何をできるのか考察する目的で書いて参りたいと思います。(なので、いつものブログより文章が堅いです。。)
とはいえ、、、類型化を進めていく際に、それぞれのジャンルごとのボリュームが多くなる可能性があるため、二部仕立てにて本エントリーを構成いたしました。
①オープンイノベーションの類型 (本エントリー)
・オープンイノベーションの類型
・「狩猟型」オープンイノベーションの事例と最近の動向
②「農耕型」オープンイノベーション事例と今後の展望
それでは最初の「①オープンイノベーションの類型」について整理を進めてまいります。
※本ブログにご興味をお持ちいただき、同様な領域についてのディスカッションや情報交換、アドバイスなどをご希望いただける方がいらっしゃいましたら、以下のMashupAwards事務局メールアドレスまでご連絡を頂けると幸いです。
MashupAwards事務局 info@ma2017.we-are-ma.jp
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オープンイノベーションとは、2003年にハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ(英語版)助教授によって提唱された概念で、自社だけでなく他社や大学、社会起業家などが持つ技術やアイデア、サービスなどを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや革新的な研究成果、製品開発、サービス開発につなげるイノベーションの方法論と言われております。
参照:『オープンイノベーション 組織を越えたネットワークが成長を加速する 』著:ヘンリー チェスブロウ
http://www.amazon.co.jp/dp/4862760465
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■オープンイノベーションの類型
オープンイノベーションが提唱されたのは2003年。製品ライフサイクルの短命化や、選択と集中によるリスク投資の減少、R&D投資回収率の低下によりスピードと精度を兼ね備えたイノベーション創出モデルが必要とされ、自前主義からの脱却を旗印に様々な地域、業態で採用をされるようになったようです。
その後十数年が経過し、様々な実績やオープンイノベーションの考え方の広がりを経て誕生していいますが、本エントリーでは「オープン・イノベーション ―オープン・イノベーション先進企業に学ぶ、自前主義脱却のKSFs―」by松田記子、鵜飼勇人(アクセンチュア)を参考にオープンイノベーションを「狩猟型」「農耕型」にわけて言及してみたいと思います。
※上記資料は以下のURLにて公開をされておりましたが、本ブログエントリー時点でウェブ上に残っておりません。以下記述は伴野が個人的に収集していた資料内の情報を元に組み立ててております https://www.accenture.com/jp-ja/insight-b20-digital-collaboration.aspx
■狩猟型オープンイノベーション
自社のイノベーションを推進する目的で、外部獲得に適していると考えられるリソースを社外探索し獲得をするオープンイノベーションスタイル。
自社のイノベーションを創発するために、研究機関、大学、ベンチャー企業やVC、他社との共同研究やアライアンス、投資、インキュベーションなどが手法として広がっております。
■農耕型オープンイノベーション
狩猟型とは反対に自社の資産をオープンにし、イノベーションが発生するプラットフォームとし、社内外でイノベーションや、ビジネスが生まれる可能性を模索する。特許の無償公開やWEB APIの開放などが多く見られます。
■「狩猟型」オープンイノベーションの事例と最近の動向
外部にリソースを探索する狩猟型のオープンイノベーションをこちらでは手法別に以下の通り3つとその他に分類し、それぞれの事例を紹介して参ります。
①技術探索、調査型
②アクセラレータプログラム、CVC
③アライアンス
④その他:クリエイターを巻き込み発展するオープンイノベーション
①技術探索、調査型
ここでは独自解決が見込めない、もしくはコストがかかる研究開発上の課題に対し、社外から解決策を見つけ研究開発を効率化するというオープンイノベーションを指します。産学連携なども含まれますが、対象とする技術探索範囲を広げる場合、マッチングプラットフォームや仲介業者などを活用することも多いようです。
事例1:P&G Connect+Develop
P&Gの技術ニーズを公開し技術探索を行っている
以下サイトはP&Gの技術ニーズを公開しているConnect + Develop。
パーソナル・ファミリー ケア イノベーションなど注力6分野毎に求めているニーズの詳細を公開。外部からの提案を広く求めている。
ポテトチップス「プリングルス」の事例はあまりにも有名です。
http://www.pgconnectdevelop.com/home/needs3.html
事例2:SHARP 産学連携のオープンイノベーション
大阪府立大学との共同基盤研究にて「ヘルシオ」を開発。
産学連携によるオープンイノベーションの事例。
http://www.nli-research.co.jp/report/report/2007/08/repo0708-3.pdf
事例3:ナインシグマ 技術探索のプラットフォーム&コンサルティング
企業側のニーズと技術のマッチングを促進するプラットフォームを運営、個別コンサルティングを実施している。
第三者によるオープンイノベーション支援分野において、国内での実績は最も多いと見られます。
http://www.ninesigma.co.jp/oi/index.html
ちなみにこれらの「技術探索、調査型のオープンイノベーション」については、上記ナインシグマの取締役 星野達也氏がまとめた「オープンイノベーションの教科書」が非常に参考になりました。http://www.amazon.co.jp/dp/4478039224
②アクセラレータプログラム、CVC
事業拡大や新規事業開発のために確保してきたM&Aや研究開発予算の一部を、ベンチャー企業が保有する技術・アイデアの活用に充当する、CVCファンドやアクセラレータプログラムをオープンイノベーションの一手段として活用する動きが増加しています。これもひとつの「探索型」であり、自社でチャレンジしにくい技術ニッチな領域や、第三者的なアイデアを獲得する目的でこれらの手段を活用する事例が、日本でも多く見られるようになって参りました。
これらの場合のアクセラレータプログラムやCVCは、大企業によるベンチャー企業とのインターフェースとしての役割も担っており、動向把握をしにくいベンチャー企業の情報取得を行う事も副次的に得られるメリットではあります。
※参考 フューチャーベンチャーキャピタルのホームページを参考
http://www.fvc.co.jp/management/cvc.html
事例4:学研 学研アクセラレータ
http://www.gakken.co.jp/accelerator/
学研アクセラレーター2016は「出版・メディア」「書籍・雑誌」「情報コンテンツ」「教育」をキーワードとして学研グループとベンチャー企業、中小企業が足りないリソースを相互に補完しあい、従来の「出版」業界にイノベーションをもたらす共創するプログラム。エクイティによる投資を実施する可能性もあるとのことです。
事例5:東急電鉄 東急アクセラレートプログラム
http://jp.techcrunch.com/2015/06/19/150619_tokyu/
設立から約5年以内のアーリーステージのスタートアップを対象に、東急電鉄沿線でのビジネス展開に向けた支援をする、アクセラレートプログラム。「交通」「不動産」「生活サービス」の3領域のBtoCおよびBtoBtoCモデルのサービスやプロダクトを募集した。
事例6:オープンイノベーション、アクセラレータープログラム支援 01booster、IMJ、TBWA\HAKUHODO\QUANTUM
・01booster →学研など
http://ascii.jp/elem/000/001/040/1040258/
・IMJ →東急電鉄など
http://jp.techcrunch.com/2015/06/19/150619_tokyu/
・TBWA\HAKUHODO\QUANTUM →ダイドーなど
http://www.tbwa-hakuhodo-quantum.jp/
事例4,5とは異なるが、大企業のオープンイノベーションを支援する事業者も増えております。この場では3つほど紹介をご紹介します。
各社アクセラレーションプログラムの開発運営の支援や、実行まで行い、大企業のオープンイノベーションの成功を伴走しているようです。
海外ではTechstarがディズニーのアクセラレータプログラムを支援するなどで知られていますね。
ディズニー、Techstarsとの協力で独自のスタートアップアクセラレータープログラムを開始
http://jp.techcrunch.com/2014/02/13/20140212disney-accelerator/
また、これらの活動はオープンイノベーションから派生し、「コーポレートベンチャリング(CorporateVenturing)」とも呼ばれます。
コーポレートベンチャリングについては以下を参照ください。
富士通総研「クラウド時代に求められる大企業の戦略としてのコーポレートベンチャリング」2010年
http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/201011/2010-11-3.html
③アライアンス
主に大企業とベンチャー企業のアライアンス、事業連携やマッチングを進めるオープンイノベーションのひとつ。
企業活動として一般的で事例は複数あり枚挙にいとまがないのですが、この場はマッチングを促進するプラットフォーマーがここ1,2年で複数誕生しているので、2つほど事例を挙げてみます。
事例7:アクセンチュア アクセンチュア・オープンイノベーション・イニシアチブ
https://www.accenture.com/jp-ja/insight-b20-digital-collaboration.aspx
「カタリスト・ユニット」「サーチライト・ユニット」「ソーシャルシフト・ユニット」の3セクションから構成され、
それぞれオープンイノベーションの架け橋の役割を担う。特に「サーチライト・ユニット」スタートアップを同社の顧客に紹介、アクセンチュアのサービス提案の中に加えることで顧客へ提案していることなどを想定しており、大企業・スタートアップのアライアンスを創発する仕組みとして注目してみたい。
※以下は上記アクセンチュアによる調査より抜粋
・ベンチャー企業の49%は、大企業と連携することで、より多くのお客様に接触したり、サービス提供の広いネットワークを利用したりすることを望んでいる。
・ベンチャー企業の45%は、協業を大企業のサプライヤーになるためのチャンスととらえている。
事例8:コトの競争ラボ
http://kotolab.org/
大企業のリソースと、ベンチャーのアイデアとスピードの掛け算から、社会にイノベーションを生み出すというコンセプトを掲げるマッチングプラットフォーム。2014年6月に、博報堂ブランドデザイン、NTT西日本、ニフティなどを主幹として発足。
④その他:クリエイターを巻き込み発展するオープンイノベーション
新しい動きとして、企業間や大学などの研究組織間では無く、一般クリエイターやエンジニア・デザイナーとの協業による新製品開発や、アカデミック分野の事例も少しずつ見られるようになってきました。これらの活動も全て、社外に技術やアイデア、人材を探索するスタイルであるため「狩猟型」にまとめさせて頂きました。
事例9:GE FirstBuild
GEのFirstBuildでは、「メインストリームから少し外れる家電」をコンセプトに、一般デザイナーやエンジニアが仲間らと共同でアイデアを実現することができるFabスペースを有するプラットフォームです。さらに、ローカルな工場群、MakerBotと提携することで少量の製品生産が可能となっており、Fabスペース(マイクロファクトリ)で作られた製品は、数量限定でFirstBuildのウェブサイト上で販売できるなど、一気通貫でサポートを受けることができます。
また、特に広く支持を集めた家電は、GEの製造施設で大量生産されることになります。
これらの過程における契約やGEとの関係性は可能な限り公開の場で実施され、透明性を確保した上で、どのようなクリエイターでもアイデア次第で家電の少数生産にチャレンジできます。
事例10:国内におけるハッカソンによる新規事業開発、アカデミック分野の展開
・NTT西日本×TBS TVHackDay
2014年に開催された新規事業創出型のハッカソンイベント「NTT西日本×TBS× TVHackDay」にて、参加者によりプロトタイピングされたアプリ「らくがきTV」は2015年NTT西日本により製品化され、リリースされた。
https://www.ntt-west.co.jp/news/1510/151002b.html
・JPHacks2015 国内最大規模の学生向け産学連携ハッカソン
ギブリーの支援に開催され、国内最大規模の学生向けハッカソンJPHacks2015は、「産学連携」をうたっており、学生による情報科学分野の研究活動と企業活動の連携による、新しいオープンイノベーションを生み出す可能性に期待をしています。
事例11:リクルートホールディングス リクルート×千葉県柏市×三井不動産
http://www.recruit.jp/news_data/release/2015/0713_15937.html
街の未来をつくるオープンイノベーションプロジェクト「Smart City Innovation Program」と銘打ち、「柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)」を舞台に、リクルートの新規事業提案制度「Recruit Ventures」の事業開発スキームを導入することで、街の課題を解決するための新規事業案の検討および検証を行う新しい取組み。リクルートの新規事業案のブラッシュアップに対し柏の葉の一般市民も参加をし、大企業の新規事業開発に対し産官民が連携し参加する、新しいオープンイノベーションの取り組みとなりました。
蛇足
オープンイノベーションが提唱され十数年。既に様々なオープンイノベーションが実現されてきました。
オープンイノベーションが生まれ、現在も様々なチャレンジが行われている背景にあるのは、冒頭に書きだした教科書通りの理由(製品ライフサイクルの短命化や、選択と集中によるリスク投資の減少、R&D投資回収率の低下・・・)だけではありません。
様々な物事が、クローズドからオープンに、所有から共有へ、所属から協働へ、、、、オープンなかかわり合い方にシフトしていく世界の中では必然的な動向と言えるでしょう。
そしてそれらの言葉が示す通り、オープン化を進める「当事者」と、参加する「参加者」の二者が登場することからは逃れられません。
いろいろな事例を見て回っていると、全てのオープンイノベーション活動の成功はこれら二者間がサステナブルなエコシステムを構築できるか、にかかっていることに気づきます。
クローズドなイノベーションが、自社の成長と発展を伴う成長モデルに裏付けされ守られていたように、オープンイノベーションにおいても、ステークホルダーがあまねく成長をし、その成長と発展の中で守られていく必要があります。
社外に何かを求めるのでは無く、社外と如何に成長をしていくモデルを構築できるか。今後のオープンイノベーションはそのあたりが重要になっていくものと、このエントリーを書きながら感じました。
さて、今回は「狩猟型オープンイノベーション」の事例などを紹介しましたが、次回のエントリー(そんなに早く書けません、、)では②「農耕型」オープンイノベーション事例と今後の展望と題し、整理を進めていきたいと思います。